やっぱり一番出番が多いのは、シルクツイルのネイビーソリッドタイ

普通だからこそ奥深い。
THE SOLEのソリッドタイは
底が見えない〝沼〟だ!

Masterplanが誇る名品を構成する〝5つの要素=5 Elements〟を、編集者・山下英介が解き明かすこの連載。今回は〝いざというとき〟に頼りになる、無地ネクタイについて取材してきました!


フリーエディターという職業柄、ネクタイを締める機会はそう多くないのだが、それでもぼくのクローゼットでは、100本ほどのネクタイが出番を待っている。そのバリエーションは、ぼくの節操のないファッション遍歴を辿るかのようなバラバラ具合なのだが、やっぱり一番出番が多いのは、シルクツイルのネイビーソリッドタイだと思う。

SNSを通してぼくを知る人は意外に思うかもしれないけれど、こう見えてもお堅い企業の打ち合わせや取材のときは、ネイビー無地のスーツにレギュラーカラーのホワイトシャツ、ネイビーソリッドタイという、いたってコンサバティブな装いで臨むことにしている。そのスタイルの原風景は間違いなく、数えきれないほど取材を重ねたエスタブリッシュなイタリアの紳士たちにある。

彼らは普段どんなにラフな格好をしていても、フォーマルなシーンにはきまってネイビースーツにホワイトかサックスブルーのシャツ、ネイビーソリッドタイという〝3点セット〟で臨むのだが、これが決まりきったアイテムだからこそ、ちょっとした素材やサイズ感、あしらいの違いが露わになる。実はこれほど着る人の個性を表現してくれるスタイルはないのだ。

「スピラーレ」代表の神藤光太郎さんも、きっとこうしたイタリアの紳士たちのスタイルに強く惹かれてきたんだろう。THE SOLEのソリッドタイのバリエーションを見るだけでよーくわかるよ!

1.
往年イタリア紳士が愛した
50オンスのヘビーツイル

英国のデヴィッド・エヴァンス社が織った50オンスのシルクツイル・・・。今ではなかなか見ることのできないこの生地でつくったソリッドタイは、ある意味では古きよきイタリア紳士のアイコン的存在だ。20年くらい前までのピッティウォモの会場では、ネイビー無地のスーツかジャケットにこの生地のネクタイを合わせたおじさんたちを本当によく見かけたものだ。ちなみに彼らの足元はきまってエドワード・グリーンだった。このネクタイは極めて上質かつベーシックな1本だけど、〝英国趣味のイタリア紳士〟という、ちょっとツイストした個性を漂わせてくれるのだ。

2.
深みが違う!
「かすみ綾」

実は今日ぼくが締めているのも「THE SOLE」のネクタイ。「かすみ織り」というシャンブレーによく似た綾織りの生地で、その名のとおり光の調子によって濃淡が変化する、表情豊かな1本なのだ。ぼくが締めているのはグレーだが、光によってはネイビーにも見えるような、絶妙な塩梅。日本的な礼節のなかに、ほのかな遊び心を感じさせるネクタイだ。

3.
カジュアルにも使える
フレスコ素材

イタリアを代表するシルク生地の生産地といえばロンバルディア県のコモ湖周辺だが、なかでも最も古いファクトリーのひとつがフェルモ・フォサッティ。その特徴はなんといっても、旧式の織機を使いゆっくりと空気を含ませながら織ることで得られる、豊かな風合いだ。こちらはそんなフォサッティの真骨頂ともいえる立体感あふれるフレスコ生地を用い、あえて裏地を省くことで、その魅力を最大限に引き出したもの。ある意味では児島産のジーンズにも通じるローテク極まりないネクタイは、カジュアルな装いとも好相性だ。

4.
英国クラシックな
レップタイ

レップタイというとトラディショナルなレジメンタル柄のネクタイを想像する方が多いと思うが、実は柄とは全く関係なく、畝の入った織りの総称。これもまた英国らしい王道のネクタイ生地なのだが、イギリス人はほとんど無地のネクタイを締めないので、やっぱりイタリア的というしかない1本なのだ。THE SOLEが加藤いさおさんとコラボレートしたこちらは、畝の立体感もさることながら、ネイビーに紗をかけたようなブルーグレーの色味が絶妙。定番のネイビーソリッドのレップタイと較べると、どこかモダンに見えるのだ。

5.
表地と芯地の
バランスで決まる、
美しい結び目

スーツでもシャツでもネクタイでも、洋服をつくるうえで大切なのは表地と芯地のバランス。どんなにいい生地を使ったとしても、芯地との相性が悪かったら、狙ったとおりの雰囲気は演出できない。ネクタイに関して言えば、締め心地やきれいなディンプルに直結する大切な要素なのだ。その点THE SOLEのネクタイは、クラシックファッション業界で〝ネクタイマエストロ〟の異名を誇る並木孝之さんが制作に携わり、それぞれの生地に対して最適な芯地をチョイス。きれいなディンプルができるよう調整しているから、結び目がバチッと決まる。正直いってぼくはネクタイを結ぶのが大の苦手なのだが・・・まあなんとかなっていると思う!

そういえば昔、クラシコイタリアを代表する某ブランドのショップに行くと、ネイビーソリッドタイの素材や色のバリエーションだけでも何十種類は揃えていて、イタリアンスタイルの底知れぬ奥深さに驚かされたものだ。さすがにそこまではいかなくても、今どきTHE SOLEほどベーシックなソリッドタイにこだわっているブランドはないと思う。件のブランドはその後大手企業に買収されてしまい、現在ではネクタイなんてほとんど扱っていないけれど、願わくばTHE SOLEはそのままであり続けてもらいたいな。



PROFILE
山下英介
やました・えいすけ/1976年埼玉県生まれ。『LEON』編集部を経て、『MEN’S Precious』のクリエイティブディレクターを務める。現在ウェブメディア「ぼくのおじさん」編集人。
https://www.mononcle.jp/