2025年 8月 09日
お世辞抜きに本物志向のバッグ
コスト度外視!
レザーバッグが語る
『THE SOLE』の本気
Masterplanが誇る名品を構成する〝5つの要素=5 Elements〟を、編集者・山下英介が解き明かすこの連載。今回は『THE SOLE』のバッグから、そのブランド哲学を読み解きます!
何を隠そうぼくはバッグが大好物。ラグジュアリーメゾンブランドものはもちろん、それらの製品をつくるファクトリーもの、郷土色豊かな職人もの、機能美に富んだアウトドアもの、世界最高の職人がつくるビスポークものetc.・・・。ありとあらゆるバッグを手に入れ、そして使ってきた。そうしてわかったことは、〝本物のバッグ〟には嘘やごまかし、そして矛盾がないということだ。
使用する材料ひとつ、パーツひとつとっても意味がある。高級を謳うバッグにちゃちなジップが付いていたら冷めるし、道具としてのバッグに壊れやすい高級素材を使う必要なんてない。そうしたものづくりの〝理(ことわり)〟を極めたバッグこそが、歴史を超えて愛される名品になるのだ。
そんな観点から『THE SOLE』のバッグをチェックしたときにいつも感じるのは、お世辞抜きにそれが本物志向であること。それぞれのバッグの目的は明確に定まっており、デザインや素材はそれに伴って、極めて自然に導き出されている。ことはキャンバスバッグだろうとレザーバッグだろうと同じことで、そこに無理がないから、美しく見えるのだ。
さて、今回紹介するレザーバッグについてだが、「スピラーレ」代表の神藤光太郎さんによると、「誰でも使いやすくて美しいバッグを、コストを気にせずとことんつくってみよう」というテーマに基づいたものだという。神藤さんの本気を、まずは見てみよう!
1.
世界屈指のレザー
「トリヨン・モーリス」
神藤さんが〝本気のバッグ〟のために選び抜いた、実用性と美しさを最も兼ね備えたレザー、その名は「トリヨン・モーリス」。フランスの名門タンナーがなめしたこのシュリンクレザーは、繊維密度がギュッと詰まっていて、柔らかいのに芯を感じる、しなやかな触感が特徴。最近よく見るシュリンクレザーのなかでもシボ感が特別美しく、しかもブヨブヨの部分を選んだりしていないから、どこから見ても隙がない。手仕事で丹念に磨いたコバと相まって、メゾンブランドのバッグにも決して負けない風格を感じるのだ。
2.
ライニングは日本製
ピッグスキン!
「ライニングまで世界トップクラスの素材を使おう」ということで、裏地には日本製のピッグスエードを採用。豚革と聞くと一見カジュアルに思えるけれど、実はヨーロッパではそのステイタスは極めて高く、しかも日本でつくられたものこそ最高級と言われているのだ。実を言うと世界が誇るフランスのトップメゾンブランドも、日本でなめした豚革を長年使い続けているのだとか。そんな上質なピッグスエードは発色もよく軽いので、バッグのライニングには最適な素材なのだ。
3.
型崩れを防ぐ芯材は特注品
「うちのバッグを買ってくれた人にはできるだけ長く使ってもらいたいし、自分自身が型崩れするバッグは嫌いなんです」と語る神藤さん。わざわざ特注した硬い底材には、種類の違うものを3枚使い、その繊維の方向が重ならないように並べることで、しならないように設計している。たくさん荷物を入れて使い続けても型崩れせず、長年の使用に耐えられるように計算しているのだ。ちなみに底鋲も高価な真鍮削り出し。とことん手抜きなしだ。
4.
本体と違う工房でつくった
自慢の「丸ハンドル」!
神藤さんが「このバッグで一番お金がかかってるのは、間違いなくここですね(笑)」というのが、ハンドル。なんとハンドルだけ、本体とは別の工房でつくっているというから驚かされる。そのポイントは、ふっくらとした丸み。芯材にはレザーを使っており、職人が両面を削って美しい曲線に整えているいう手間のかかりようで、ヘタをすると腰に巻くベルトを4本つくるくらいの作業を要するという。「工場からはすごいコストがかかると言われたけれど、丸ハンドルにするだけで持ちやすさが全然違うから、これだけは絶対に譲れなかったんです」と神藤さん。
5.
真鍮削り出しのメタルパーツ
亜鉛合金の安っぽい金具だけは許せない!と語る神藤さんのこだわりが爆発しているのが、オリジナルでつくったというフラップ型トートバッグのロック部分。真鍮削り出しのメタルパーツをプレートで補強しつつ釘留めすることで、フラップとガッチリ一体化させている。しかも一見ふたつの金具に見えるが、実際は写真のとおり、これほど多くのパーツが使われているのだ。「真鍮でも鋳造ならもっと安くつくれるんですが、やっぱり削り出しは高くてもシャープさが全然違う。えっ、価格ですか? 安いバッグなら買えますよ(笑)」。今や国内でこれほど手間のかかったメタルーパーツを使っているバッグはほかにないという。
以上のように、ただ〝いいものをつくりたい〟というピュアな気持ちを積み重ねていくことでつくった、フラップ型トートバッグ「PATTINA」の価格は、結果として税込275,000円。ボストンバッグやトートバッグなら、18万円程度である。もちろんバッグ単体の価格としては高価かもしれないが、神藤さんは「レディメイドのバッグとしては限界までやりきった」と胸を張る。そしてこっそり「こんなのメゾンブランドでやったら3倍はしますよ(笑)」とも。はっきりいってぼくもそう思う! ラグジュアリーブランドの生産体制やマーケティング戦略が曲がり角にきている今、『THE SOLE』のような嘘のないものづくりをしている企業は、かなり貴重だと思うのだ。
PROFILE
山下英介
やました・えいすけ/1976年埼玉県生まれ。『LEON』編集部を経て、『MEN’S Precious』のクリエイティブディレクターを務める。現在ウェブメディア「ぼくのおじさん」編集人。
https://www.mononcle.jp/